勝手に評論家

2002年3月4日更新

合唱コンサートの演奏会評です。 こんなコンサートを聞いたという記録以上のものにはならないだろうな。 まあ、気になる合唱団への注文と思ってくださいな。



第6回富士通川崎合唱団演奏会(2002年3月3日)

第6回富士通川崎合唱団演奏会
日時
2002年3月3日14:30開演
場所
府中の森芸術劇場ウィーンホール
後援
富士通株式会社、JCDA 日本合唱指揮者協会、東京都合唱連盟
プログラム
  1. Ave Maria
    • Ave Maria(Cantus Gregorianus)
    • Ave Maria(Thomas Luis de Victoria作曲)
    • Ave Maria(Clemens non Papa作曲)
    指揮:片野秀俊
  2. クリスマスのための4つのモテット(Francis Poulenc作曲)
    • O Magnum Mysterium
    • Quem Vidistis Pastores Dicite
    • Videntes Stellam
    • Hodie Christus Natus Est
    指揮:片野秀俊
  3. 混声合唱のための「マザーグースのうた」より(谷川俊太郎訳詩、青島広志作曲)
    • 第二の小序曲(ガリアルドとメヌエット)
    • ゆくゆくあるいて(序曲のかわりに)
    • ミルクよバターに(B.ブリテン風のコミックソング)
    • くぎがふそくで(ほとんど政治歌謡ふうに)
    • ソロモン・グランディ(ニューオリンズ・JAZZのスタイルで)
    • ほねとかわのおんながいた(黒人霊歌ふうに)
    指揮:加藤雅子、ピアノ:藤井亜紀、音響効果:伊藤優
  4. 混声合唱組曲「気球の上る日」(谷川俊太郎作詩、後藤丹作曲)
    • いざない
    • 風が強いと
    • かなしみ
    • 気球の上る日
    指揮:片野秀俊、ピアノ:藤井亜紀
アンコール

15年前に1年間だけ在籍し、 その後はメールのみの付き合いとなっていた富士通川崎合唱団 の演奏会に出かけた。 コンクール演奏のテープを送ってもらって聞いたことがあるが、 生で聞くのは初めてだということに気がついた。

会場の府中の森ウィーンホールは、 ハーモニーメーリングリストでよく聞く有名どころらしい。 やや中心から外れた立地なので、 関西で言うなら甲南女子芦原講堂にあたるだろうか。 座席数500程度の良く響く歌いやすそうなホールである。 それでは各ステージの感想を書くとしようか。

第1ステージはAve Maria曲集。 古今東西のAve Mariaを集めたステージというのは時折演奏される形態である。 今回のステージでは、16世紀の曲とグレゴリオ聖歌に焦点を当てた構成となっている。

全パートのユニゾンで歌われたグレゴリア聖歌は、 よく響く会場に調和して、 ルネサンス物のアンサンブルをしっかり練習している様子がうかがえる。 惜しむらくは、歌い手が会場の響きをあまり意識していないところだろうか。 開始直後で少し緊張が残っているのかもしれない。

ビクトリアのアベマリアは、もっとポリフォニーの構成感が出ても良いのではないだろうか。 ハーモニーは充実していて美しい響きが鳴っているだけに、 パート間のバランスやフレーズごとのうねりが伝わってこないのが残念である。 クレメンスの方も印象は同様である。 各パートはしっかり歌っているのに、どうして伝わってこないのだろうか。 ふと気がついたことは、 表のフレーズと裏のフレーズを意識できていないのではないだろうか。 つねに歌いすぎると、お互いが邪魔しあうのだ。 ここを突破するとずいぶん伝わり方が違いのだろうと私自身は納得する。 演奏者側はどう感じて歌っているのだろうか…。

第2ステージはプーランクの有名なモテットである。 2000年のJCAコンクールでたくさん歌われたものだ。 この合唱団も自由曲として何曲か選択したのではなかったろうか。

1曲目の入りは神秘的な音色が良く表現されていて演奏の完成度を期待させた。 しかしながら、 そのあと常に同じ音色で演奏されることに不満をもったことを正直に告白しよう。 この曲だけではないが、 表情を変えながらテーマを繰り返し演奏する形式をとっているだけに、 音色の変化がないのが気がかりである。 また曲ごとの表現の違いももっとあってよいのではないか。 さすがに4曲目はフォルテも出てくるだけに、 それなりに違った色合いにはなっていたと思う。

プーランクは難曲である。 音程がいのちという要素もあるだけに、そこに注力するのはやむをえない。 でも、音楽の要素はそれだけにとどまっているのならば、 オルゴールやMIDIの演奏のほうがはるかに音楽の再現力は高い。 息遣い、心臓の鼓動が伝わってくるような表現力を身にまとったとき、 少々の音楽的な破綻はあったとしても、 感動的な演奏になるのではないだろうか。 難曲が難曲に聞こえない、曲のすばらしさが伝わる演奏にしたいと思う。

休憩をはさんで、青島広志の名曲「マザーグースのうた」である。 衣装にも変化を持たせて、視覚的にも観客を楽しませる工夫をしている。

指揮は普段の練習で厳しく指導しているらしい加藤さん。 ダイナミックなバトンが持ち味である。 歌い手側は、指揮の表現に比べて控えめな歌い方をしているのが気になる。 指揮者のはしごをはずしてしまってはいけないなあ。 きちんと付いていってあげないと…。 慣れない演出で頭がいっぱいになっているのかも。

とは言うものの、一般聴衆の目で見ると楽しいステージであったというのは間違いない。 私だったらもっと積極的に表現したいところもあるが、 紳士淑女の集団ではあれが目いっぱいかも。 (打ち上げでの様子から勘案するに、もっと表現できたに違いないと確信したのだった)

最終ステージは作曲者の後藤氏が会場に来ているとの情報もあって、 どのような演奏になるかかなり期待していたのだった。 藤井さんの素敵なピアノで始まったこの曲、 合唱団の共感も伝わってきて、素晴らしいできだったのではないだろうか。 ただ、3曲目は少し中だるみのような演奏だったのは、歌い手が疲れてきたからだろう。

日本語を日本語に聞かせることは難しい。 曲のニュアンスを伝えるためには、テキストをうまく表現することが重要である。 それがうまくできていたかとなると、曲への想いとは裏腹に今一歩だったのではないだろうか。

言葉を強く伝えたいとき、子音を強調するという手法がとられることが多い。 特定の曲の場合はそれが有効な手段となることもあるが、 一般的には、実は母音の処理が重要だと思っている。 子音と母音のバランスが取れたとき、 言葉が生き生きと伝わってくるのではないだろうか。

普段使っている日本語を伝えることがいかに難しいかを強く感じたのが、 この4ステージということができよう。 感動をうまく伝えることばの扱いを、私自身ももっと研究したいと思った。

手厳しいことばかり書き連ねてきた気がするが、 実は楽しめたステージだったと思う。 次回も聴きに来たいと思う。 今年はJCAのコンクールに出る予定だと聞いている。 ぜひ東京代表となってもらって、琵琶湖ホールで聞いてみたい。



Kamimura Masatsugu (HOME: Akashi city, Hyogo)
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